2016.11.09 Wed
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耳の不調から認知のズレまで……恐るべきイヤフォン難聴とは(1/1ページ)

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スマホは現代人が肌身離さず持ち歩くパートナー。電車やバスに乗って周りを見渡せば、猫も杓子もスマホとにらめっこしていますよね。そして外出先でスマホのコンテンツを楽しむのに必須なアイテムといえば、イヤフォン。気になる動画や音楽を絶え間なく聴き続けたいあまり、すでにイヤフォンが体の一部となっている人も多いのでは?

気になるのが、耳への負担です。周囲の音が聴こえないほどの音量を毎日受け続けて、耳に悪影響はないのでしょうか? 今回は「聴覚評論家」として活躍中の耳鼻科医・中川雅文先生に、イヤフォンやヘッドフォンの問題点、対策などをお聞きしました。

掘り下げてみると、機能的な耳の“きこえ”問題にとどまらず、認知のズレまでも引き起こす根深い問題であることが明らかに。恐るべきイヤフォン難聴の実態をぜひご覧ください。

 

監修:中川雅文 先生nakagawasensei

耳鼻咽喉科医、国際医療福祉大学病院勤務。「聴覚評論家」としてブログやtwitter、テレビなどで“きこえ”や脳の認知についての様々な情報を発信している。著書に『「耳の不調」が脳までダメにする』(講談社)『耳がよく聞こえるようになる本』(河出書房新社)ほか

 

世界的に増えている難聴

megaphone

WHOの報告によると、近年、世界的な規模で難聴者が増えています。

どの国にも何らかの理由で難聴を患っている人は1割くらい存在し、また正常な人であっても年を経るごとに加齢性難聴が進行します。しかし、ここ10年で先進国に住む若者の難聴者割合が急激に増加。その主な原因は、イヤフォンやヘッドフォンをつけて過剰な音量で音を聞いていることだと推測されています。スマホの普及(2016年における15〜24歳のスマホ所持率94%)にあわせて顕著になってきたこの現象は、「スマホ難聴」および「イヤフォン難聴」などと呼ばれ、専門家のあいだで非常に問題視されています。

 

耳の構造と、難聴に至るプロセス

ear cut view

そもそも、耳で音を知覚するメカニズムとは、どのようなものなのでしょうか。耳は大きく分けて外耳、中耳、内耳から構成され、一番奥の内耳の中にはうずまき状の「蝸牛」という器官があります。蝸牛の中はリンパ液で満たされており、外耳から入ってきた振動が鼓膜に伝わってこのリンパ液を揺さぶります。蝸牛の中には最大15000もの有毛細胞が並んでいて、リンパ液が揺さぶられた時にこの有毛細胞が振動をキャッチ。電気信号として脳へ伝達し、音として認識されるようになっています。有毛細胞とは名前の通り毛のような細胞で、もちろん目には見えませんが、一つの細胞に300本くらいの毛があるといわれています。

この有毛細胞の毛というのが非常にデリケートで、大きな音(振動)によりリンパ液が激しく揺すぶられると、抜け落ちてしまうのです。85デシベル程度をしきい値として、音が大きくなるほどに、有毛細胞は傷付いて壊れていきます。毛が減ると振動をキャッチすることができず、段々と聴こえにくくなる→聴こえにくいので音量を上げる→その大きな音でさらに有毛細胞が傷つく……という具合に、ほうっておくと難聴は段々とエスカレートしてしまうのです。

それでは有毛細胞を傷つける「85デシベル」とはいったいどのくらいの音量なのでしょうか?

 

身近な生活音の音量と、一日の許容限度量

noise

身の回りの音を音量で表現すると以下になります。

静かな室内でも30〜40、電車の騒音は意外と大きめで60〜75……と、それぞれ危険領域の85デシベルは超えないものの、耳には一定の負担がかかっているようです。

さらにこんな数値もあります。WHOが調べたところによると、人間の1日の許容限界音量は、ヘアドライヤーなら15分、工事現場だと4分、ロックコンサートにいたっては28秒で限界がくるといわれています。車の運転でさえ8時間連続で運転すると難聴になるとも。電気などの巨大なエネルギーを使って発する音は、生き物が発する音より大きく、かつ持続するため、一定の時間聴きつづけていると耳にダメージを与えます。そのような電子音がまだ存在していなかった時代、かすかな虫の声や鳥の声を歌に詠んでいた頃と比べると、私たち現代人はつねに大きな生活音に囲まれて生きているのが分かりますね。

 

なぜイヤフォンは耳に深刻なダメージを与えるのか

earphone

数多くの騒音に囲まれた現代社会でも、イヤフォンが特に問題視されているのはなぜでしょう?

たとえば、電車の中でイヤフォンを使って音楽を聞くとします。イヤフォンから伝わる音(振動)は外耳から内耳を通って鼓膜を振動させ、音を伝えます。このほかにも耳には、耳の骨や耳介(耳の外側の部分のこと)によって振動を感じ、さまざまな周波数の音をピックアップする機能が備わっています。電車の機械音、アナウンス、乗客の会話音……これら雑音を耳の骨や耳介が拾ってきて、イヤフォンから伝わる音と混ぜてしまいます。すると聞きたい音は音声ボリュームを上げないと聞こえにくくなりますよね。

電車の車内騒音は65デシベルから70デシベル。音楽を聴こうとするとプラス30から40デシベルのボリュームがないと、雑音をかき消したクリアな聴こえ方ができず音楽に没頭できません。そうなると95から110デシベルで聴いてしまい、結果として有毛細胞は大きなダメージを受けてしまうのです。

 

ダメージを受けた後にすべき「耳養生」

Hear no Evil

一度受けたダメージを、元通りに修復するすべはあるのでしょうか? 有毛細胞はその名の通り「毛」なので、髪の毛のようにある程度は自己再生します。回復にかかる時間は、約48時間。再生を促すには頭髪同様、体全体の血流がカギとなります。血糖が多い、コレステロールが高い、活性酸素が多いなど、いわゆる「血のめぐりが悪い」状態になっていると自己修復が妨げられます。つまり、48時間新たなダメージを受けぬよう静かな場所で、脱水にならず、糖分や油を取りすぎないよう耳養生に努めれば、ある程度の回復は可能です。

この期間にできるだけ音を入れないようにするには、耳栓が有効です。耳栓をすると周囲の音が聞こえなくなり不安だと思う人には、近年出ているノイズキャンセル機能付きの耳栓がおすすめ。必要な音は聞こえ、不要な音は通さなくなるという優れモノです。耳栓文化は日本ではあまり普及していませんが、ヨーロッパではロックコンサート会場で、終演後は「耳の機能を回復させるため耳栓をしましょう」というキャンペーンが行われることもあるのだとか。積極的に導入して、耳の保護に役立てたいものです。

 

耳の不調を自覚したらすぐ診察を

Ear examination

一方、あまりにも大きなダメージを受けると、自己再生が及ばない場合もあります。120デシベル以上の音を数秒以上聞いたあと、直後に耳鳴りがしたり、翌日1日中耳鳴りがするという人は要注意。再生にかかる時間は年齢差や個人差が大きいですが、目安として24時間経っても耳鳴りが治まらない場合は、医療機関を受診しましょう。

「耳鳴り」や「耳が詰まった感じ」、「左右で音の響き方が違う」など、実はこれら耳の不調を自覚している時点で、実際には難聴がかなり進行している状態です。医院では、蝸牛の有毛細胞がどれだけ残っているか精密検査を行い、薬を処方します。しかし、残念なことに現代の医学では失われた有毛細胞の毛を増やす「毛生え薬」はいまだ開発されていません。炎症が起きているのなら、それを抑える薬。あとは血流や神経に働きかけ、自己再生を促す薬を処方し、息の長い生活指導を行っていくことになります。

大きな音によって失ってしまった有毛細胞の毛は、自助努力や医療の力である程度回復させることは可能ですが、100%の状態に戻すのは難しいです。年齢が若ければ、80%の状態には回復し、機能的にも特に問題は感じません。が年齢を経るごとに回復力は落ちていき、失った毛は戻らない……。耳は生涯を通して大事に使わなくてはいけない器官であることがわかります。

 

イヤフォンとヘッドフォン、どっちが負担が少ない?

headphone

ここまで読んでも「移動時間に音楽を聴くのが楽しみなので、イヤフォン使用を諦めるのはツラい……」と、後ろ髪引かれる人も多いことでしょう。なんとかして耳への負担が少ない楽しみ方はないものでしょうか。

どちらかというとヘッドフォンであれば、耳介を覆ってくれるので外部からの雑音進入を防ぐことが可能です。つまり、音量を上げずにクリアな音を楽しめます。ただし、「ヘッドフォンなら耳に優しい」という思い込みをもたないこと。密閉されているということは、音の逃げ場もないので、大きな音で聴けばモロにダメージを受けてしまいます。

イヤフォンにしろヘッドフォンにしろ、1日の許容量は59分程度が限界。制限時間内で、できるだけ小さな音で楽しむことが大切です。目安は静かな部屋にいるときに、ちょうどいい〜ちょっと小さめかなと感じる音量。電車の中や街中に行っても音量は上げないように。この音量であれば概ね80デシベル以下であり、蝸牛の中にある有毛細胞も自己修復できる範囲です。

なお、耳栓の際にも述べたように、ノイズキャンセル機能付きのイヤフォンやヘッドフォンを選ぶのも有効です。しかしノイズキャンセル付きのヘッドフォンの場合、周囲の音が完全にシャットダウンされてしまいますので、自転車に乗っている時などは周囲の状況がわからず危険。電車内などではヘッドフォン、何かを運転している時はイヤフォン、と状況に応じて使い分けるのがよいようです。

 

難聴が進むと、最終的にどうなるのか

Counfusing

難聴が進むと、音がまったく聞こえなくなるというワケではなく、途切れ途切れに聞こえる、もしくは聞こえない音が出てきます。「さ行」と「は行」の聞き取りが困難になったり、た・だ・が・ばの区別が付きにくくなったり。そうなると何が起こるかというと、ちょっとした聞き間違いから、認知のズレが起こっていきます。「だ」からはじまる言葉なのに、「た」と誤認知してしまうと、頭の中でめくる辞書のページも違うので、脳内検索に時間がかかったり、「たぶんそうだろう」と憶測をして、間違ったインプットをしてしまうことも。

認知症だと思われていた人が、補聴器をつけて認知症テストを受けたら、点数が大きくアップ。実は認知症ではなく、聴こえていないだけだった……という例もあります。“きこえ”は「認知」と関わりが深く、人生を左右する大きな問題であることがわかります。

 


 

繰り返しますが、有毛細胞の毛は、一度失ってしまうと100%の状態に戻すことはできません。それでなくとも加齢によって失われる分がありますので、大きなダメージを受けないよう、つねに音量に配慮する、ダメージを受けたら養生するなど、日々のケアが大切です。

心がけとしては、日々薄くなる頭髪を気にするような感覚で、栄養や運動に気を配り、サラサラの血流を目指して健康的な生活を。「髪の毛にいいことは耳にもいい」そんな標語を立てて、髪の毛と同じように、耳の中の小さな毛にも気を遣ってくださいね。

 

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